36春日浴ぶ

              春日浴ぶやさしき声を聞くごとく(男声女声) 常朝 (演奏時間2:13)

注:令和3年2021年2月下旬、京都府木津川市の西ノ宮神社から大里公園を訪ねました。公園の桜はまだ蕾でしたが、土手に坐り池などを眺め、とても暖かな春日差を浴びていると優しかった叔母たちの声が空から聞こえてくるようでした。  
    洛南の公園桜はまだなれど
    池に豊かな春日差し
    岸に坐ればあたたかし
    春日浴ぶやさしき声を聞くごとく


       鶯の鳴けば鳴き止む田の蛙(男声女声)   常朝 (演奏時間 1:36)

注:令和4年2022年3月、京都精華町の乾谷を歩いていたら田の蛙が鳴いていました。

しばらく鳴き声を聞いていたら鶯が鳴き出して、蛙の声が止まりました。蛙たちも鶯の声を聞こうとしたのかもしれません。
    洛南の谷田ににぎやかに蛙鳴く    
    その声しばし聞きおれば
    鶯つよく鳴きはじむ
    鶯の鳴けば鳴き止む田の蛙


       とめどなく花散る下に立ちゐたり(男声女声) 常朝 (演奏時間 1:40)

注:令和3年2021年3月、近所の三段公園には大きな桜が5、6本あり今年も見事な花を咲かせてくれます。3月末公園に行くとちょうど満開の桜が散り始めました。その下に立つと風もないのにとめどなく花が散り、頭に肩にふりかかりました。それはなにかの恵みのようでした。   
        三段の公園広く誰もゐず
    桜大樹は咲き揃ひ
    風もあらずに散りゐたり
    とめどなく花散る下に立ちゐたり

       破蓮のあきらめきりし姿かな(男声女声)    常朝   (演奏時間 1:55)     

注:1994年12月上野公園の忍ばずの池を歩いたら破蓮(やれはす)がカモメの来る池面にうなだれていました。見る人もなく諦めきった様子でした。(原曲:Orpheus作曲) 
    不忍の池にかもめの来ていたり
    見れば破蓮あまた立つ
    見る人もなくうなだれて
    破蓮のあきらめきりし姿かな


      回りつつ輪を狭めけり鴨の陣(男声女声)     常朝   (演奏時間 1:55)              

注:2018年1月末大和郡山市の大和民俗公園からの帰り、北東500メートルほどの大和田城跡北の池を訪ねました。たまたま鴨が20羽くらい集まっていて鴨の陣を作っていましたが、そのうち鴨たちが時計回りに回転をはじましめた。見ているとその輪が段々と狭くなってきてそのうちの1羽が輪から抜けてしばらくして元に戻りました。何のために回転をしているのでしょう。 
    城跡に近き池面は静かなり
    二十羽も集まり作る鴨の陣
    輪になりてくるくる回りはじめたよ
    回りつつ輪を狭めけり鴨の陣

 

35子規庵

       子規庵の糸瓜の花を見てゐたり(男声女声)  常朝    (演奏時間 1:46) 

注:2017年9月孫の高校文化祭を見るため上京した折、根岸の子規庵を訪ねました。少し待って10時から入館し、庭で子規が見ていたであろう糸瓜棚の糸瓜を見ました。
女郎花とともに黄色い花が咲いていました。病床にいながら最後まで庭の花などを見た子規のおかげで俳句が復活しました。
    子規庵はよみがえされし子規の家
    庭に糸瓜の棚もあり
    土蔵のそばに女郎花
    子規庵の糸瓜の花を見てゐたり                

    日本中無月と知りて落ち着きし(男声女声)   常朝   (演奏時間 1:56) 

注:2018年9月24日中秋の名月の日、あいにく空は雲ばかりで月は見えませんでした。テレビのニュースを見ると、日本列島のほとんどが雲におおわれて月見ができないとのことで、全国がそうなら仕方がないと、あきらめて心も落ち着きました。
    中秋の名月朝から夜を待っていた
    けれども空は雲ばかり
    テレビは全国曇りという
    日本中無月と知りて落ち着きし 

    水馬まだあまたゐて暮石の忌(男声女声)   常朝    (演奏時間 2:12) 

注:2008年8月9日私の始めての俳句の先生:右城暮石先生の忌日、諸先輩と京都中山の清閑寺を訪ねました。翌日近くの富雄川に出ると、堰の上には水馬が沢山いました。
先生の「いつからの一匹なるや水馬」を思い出しました。
やはり最後は一匹になるのでしょうか。
    先生の忌日迎えし富雄川
    豊かなる水を湛える堰の上
    あまた元気な水馬
      水馬まだあまたゐて暮石の忌

    子蜥蜴の止まりて何を考ふる(女声男声)   常朝   (演奏時間 2:00)  

注:2021年8月朝庭に出ると、庭石の陰から子蜥蜴が出てきて石に登り、しばらく止まりました。石の上で、どこへ行こうか、餌を探そうかなどと、何かを考えているようでした。言葉が通じれば、何を考えているの、と聞きたい気がしました。
    庭石の陰から子蜥蜴ひょいと出て
    石に登りて止まりたり
    短き停止なれども長く感じるよ
    子蜥蜴の止まりて何を考ふる

    美術館出れば異国の蝉の声(女声男声)     常朝   (演奏時間2:00)   

注:2012年9月長男一家の住むニュージャージーを訪ねたとき、一緒にニューヨークのメトロポリタン美術館を見学しました。若い頃1969年秋会社の研修でニューヨークに3ヶ月滞在したとき以来、41年ぶりの訪問でした。美術館を出ると蝉の声が聞こえました。アメリカの蝉の声でした。そばのセントラルパークでは孫もヨット遊びを楽しみました。(原曲:Orpheus作曲) 
    若き日に訪ねし異国の美術館
    ふたたび訪ねしメトロポリタン
    出れば昔の蝉の声
    美術館出れば異国の蝉の声

34風祈祷

    老鶯の時過ぎゆくを惜しみ鳴く(男声女声)    常朝    (演奏時間 1:58)  

注:2018年5月木津川の上河原を歩きました。河原の藪では鶯がしきりに鳴いています。5月も中旬となり春が過ぎゆくのを惜しんで鳴いているようでした。姿は見えませんが、おそらく小さい体をせいいっぱいふるわせて鳴いているでしょう。(原曲:Orpheus作曲)
    木津川の河原の藪の道暗し
    笹の奥には高き木々
    行く春を惜しむか鶯声やまず
    老鶯の時過ぎゆくを惜しみ鳴く 


       風祈祷せよとの掲示夏の杜(男声女声)     常朝    (演奏時間 2:07) 

注:2014年7月奈良・宇陀市の室生深野の小高い田園地帯を俳句仲間で訪ねました。
その地の金毘羅神社からの田畑の見晴らしが良い所です。
神社のそばに掲示板があり、地元の農家への連絡事項として、
風祈祷をするようにとの指示がありました。
    室生の奥その名も深野の田園高地
    見晴らしのよき神社あり
    そばに高々掲示板
    風祈祷せよとの掲示夏の杜


       神霊地探しと云ひて滝に来し(女声男声)     常朝    (演奏時間 1:36)

注:2012年7月奈良大和田町の行者滝を訪ねました。
滝を見ていたら若者が一人滝に来ました。
聞くと神霊地を探して歩いていると言いました。
そのような趣味もあるのかと驚きました。
    奈良矢田山のふもとには
    岩に囲まる行者滝
    涼んでおれば若者ひとり
    神霊地探しと云ひて滝に来し


      神馬堂まで砂の飛ぶ春祭(女声男声)       常朝   (演奏時間 2:24)

注:2015年2月11日奈良・河合町の広瀬神社の砂かけ祭を訪ねました。
この日はお田植祭で、砂を雨に見立てた祈雨の神事でもあるようです。
お田植えのあと、白覆面の農夫が田鋤きの途中から見物客に砂をかけ、
見物客も農夫や他の人々に砂をかけます。
砂が我々の避難している神馬堂まで飛んできました。
    砂かけ祭は奈良の神社の春祭り
    はじめは真面目なお田植え祭り
    途中から農夫がみんなに砂をかけます
    神馬堂まで砂の飛ぶ春祭 


       行列の古墳を過ぎる春祭(男声女声)   常朝   (演奏時間 2:10)

注:2018年4月1日奈良・大和神社のちゃんちゃん祭に参列しました。
これは鉦を叩きながら馬に乗った天理市長や武者と各地区の代表の行列が、
お旅所へ神をお送りして芸能をお見せする祭ですが、お旅所への道には古墳があり、
鉦を叩きながら行列がのんびりと通りすぎました。
    おおやまと神社は古き奈良の杜
    御旅所へ神を送るはちゃんちゃん祭
    古墳のそばを通りゆく
    行列の古墳を過ぎる春祭


33お水取

       修二会果て石焼芋の帰りゆく(女声男声)   常朝    (演奏時間 2:20) 

注:1986年3月奈良・二月堂のお水取り(修二会)を見に行きました。二月堂の廊を走る松明を見たあと、大勢と共に境内を帰る途中、石焼き芋の手押し車も一緒でした。最近は石焼芋の車を見ることがほとんどなくなりました。
    東大寺二月堂のお水取り
    回廊走る松明を
    見上げたあとの帰り道
    修二会果て石焼芋の帰りゆく


       閼伽井屋の提灯暗しお水取(女声男声)    常朝    (演奏時間 2:16) 

注:2010年3月12日奈良・二月堂のお水取りの夜に参列、この深夜、二月堂の下の閼伽井屋に僧侶が入り、若狭から送られるという水を、中の井戸から汲み上げる儀式です。二月堂からの行き帰りの行列も明かりは松明だけで、汲み上げるときは暗い提灯だけでした。 
    東大寺二月堂のお水取り
    お水を汲むのは閼伽井屋の井戸
    暗がりの静けさの中僧が汲む
    閼伽井屋の提灯暗しお水取


      水争いありし峠に春の雪(男声女声)     常朝    (演奏時間 2:30) 

注:2009年3月雛の節句に奈良・御所市関屋の葛木水分(みくまり)神社を訪ねました。
この峠(水越峠)は江戸時代西の大阪側と奈良側で峠の水を東西どちらに流すか水争いがあって、古い文書のおかげで奈良側に水を取り戻したとのことです。その昔を思っていたら春の雪が降ってきました。
    葛城山水越峠は奈良大阪の境にて
    その昔峠の水を争いし
    水分の神社に立てば春の雪
      水争いありし峠に春の雪

       病院の窓よく見ゆる冬木越し(女声男声)   常朝    (演奏時間 2:04) 

注:1990年平成2年1月心臓病で通っていた東京・港区の慈恵医大病院に入るとき、周囲の木々がほとんど裸木となっていて、見上げると今まで見えなかった病室の窓がよく見えました。
    病院は背の高き木々に囲まれて
    冬は裸木ばかりなり 
    いかなる人か窓の内
    病院の窓よく見ゆる冬木越し 


      恋猫の静かになりて眠られず(女声男声)   常朝    (演奏時間 1:50) 

注:1986年昭和61年春、家の近くにまだ畑や蛍の飛ぶ藪などがあり野良猫もいて、時々家の庭などにも来ました。春先は恋猫が相手を求めてうろつきます。ある夜遅くまで恋猫がギャーギャー鳴いて眠られず困っていましたが、急に猫の声がやみました。静かになったらかえって眠れなくなりました。
    野良猫の恋の始まる春浅し
    恋猫の鳴く声夜は眠られず
    その声急にとまりけり
    恋猫の静かになりて眠られず


32書初

      書初の写経を終へて塔見上ぐ(女声男声)   常朝    (演奏時間 2:00) 

注:2018年1月薬師寺の写経道場を子供達と訪ね、全員で写経しました。その後、別室で初点前をいただきました。道場を出て見上げると、西塔と修復中で覆われた東塔が見えました。
    書き初めは写経道場薬師寺に
    子等と静かな時過ごす
    写経終へ道場出れば高き塔
    書初の写経を終へて塔見上ぐ

     旧道はどこかなつかし冬日差(男声女声)   常朝   (演奏時間 2:10)   

注:2020年12月初旬、京都精華町の柘榴地区を東谷神社まで歩きました。一段下の国道163号線は車が多く落ち着かない道ですが、旧道に入ると急に静かな道になりました。家並みも古く冬日差を受けた町は、どこか昭和の町に入ったようで、なつかしく感じました。     旧道に入れば静か洛南は
    師走の町に冬日差
    昭和の町の風情あり
    旧道はどこかなつかし冬日差

      近江富士望む漁港に焚火せり(男声女声)   常朝   (演奏時間 1:47)   

注:2012年12月琵琶湖の堅田漁港を訪ねました。漁港自体は広くはないですが百合鴎が泳いており、漁師の男性数人が浜で焚き火をしていました。我々も焚き火にあたらせてもらい、湖を見ると対岸にきれいな近江富士(三上山)が見えました。(原曲Orpheus作曲) 
    琵琶湖の冬は百合鴎
    当たらせてもらう堅田の港の焚き火
    対岸はるかに近江富士
    近江富士望む漁港に焚火せり

       死ぬるかと近寄り見たり穴惑(女声男声)   常朝   (演奏時間 1:45)    

注:2016年9月奈良・大和民俗公園へ富雄川沿いに歩いていたら、道端に蛇が横たわっていました。近づいてよく見ると死んでいました。穴惑いが穴を見つける前に死んだらしい。
    川沿いに刈りし田もある奈良の西
    道に一匹蛇いたり
    近寄りてよくよく見れば死にいたり
    死ぬるかと近寄り見たり穴惑

       どの色も選びたき色櫨紅葉(男声女声)     常朝    (演奏時間 1:53) 

注:2020年11月下旬、奈良・生駒市の鹿畑を訪ねたとき、途中の坂に大きな南京櫨
(ナンキンハゼ)の木があり見事に紅葉していました。葉をよく見るとその色は
黃、橙、赤、紫、黒とその中間色と、紅葉の程度は実にさまざまで、一枚ずつ手にとると
どの色も、それぞれ味わいがあり、自分はどの色が好きなのかと迷っていました。
選ぶのに迷ったので、数枚持ち帰り、玄関に飾りました。
        奈良の西鹿畑の坂に南京櫨
    見事に紅葉していたり
    色は黄色橙赤紫黒とさまざまに
    どの色も選びたき色櫨紅葉


31案山子

       案山子なりこの辺に見ぬ洋装は(男声女声)   常朝    (演奏時間 1:41)

  注:2014年8月奈良・山陵町(みささぎちょう)の塩塚古墳の西側の道を歩くと、のんびりとした田園地帯ですが、そこにこの辺りでは見かけない洋装の女性が立っていました。よく見ると案山子(かかし)でした。マネキン人形にしゃれた洋服を着せていました。
    奈良の西山陵町に小さき古墳
    過ぎればのどかな田園地帯
    畑にひとりの洋装女性
    案山子なりこの辺に見ぬ洋装は


     デモ果てて帰りばらばら十日月(男声女声)   常朝    (演奏時間 1:53)

注:2019年9月友人とJR奈良駅から三条通りを「九条改憲No!」のデモ行進に参加しました。デモに参加したのは学生時代以来60年ぶりでしたが、夕方だったので街は外国の観光客ばかりであまり効果的でなかったようです。県庁前で解散しましたが、帰りはばらばらで半月が輝いていました。

    自衛隊アメリカ戦争に巻き込むなと
    集団的自衛権の反対デモす奈良の町
    空見上げれば半月輝く高々と
    デモ果てて帰りばらばら十日月


      風あれば風に輝く芒かな(男声女声)     常朝    (演奏時間 1:44)

注:2019年9月下旬、奈良・生駒市の竹林園を訪ねたとき、100メートルほど東の池の土手に芒が白い穂を出していました。時折風がくると芒がゆれて白い穂がさらに白く輝きました。
    竹林園に近き池にも秋来たり
    岸辺に白き芒の穂
    日当たりてときおり届く秋の風
    風あれば風に輝く芒かな


      夏痩せの男の守る廃寺跡(男声女声)     常朝    (演奏時間 1:56)  

注:2010年8月末、奈良・山添村の毛原廃寺跡を訪ねました。
奈良時代の大寺院に匹敵する大寺の跡で、建物はありませんが
金堂や南門の礎石や庭が民家の敷地に残っています。
近くの家の主人に聞くと、代々この寺跡を守ってきたとのこと。
主人はやせていました。
    山中の村に奈良時代の大寺の礎石跡
    六地蔵ある土手に仙人草や彼岸花
    農家の主に聞けば代々この寺跡を守ってきたと
    夏痩せの男の守る廃寺跡    


       なめらかな父の筆跡終戦忌(男声女声)    常朝    (演奏時間 2:20)  

注:2010年8月終戦日の頃、母の遺品を整理していたら、父の残した厚さ3センチの昭和9年からの覚え帳が出てきました。当時生家は食料品店だったので、山林売買や大きな商品仕入れなどが、父のなめらかな筆跡で筆書きされていました。その頃父が使っていたと思う三角形の鉄の文鎮が唯一の形見として今も本棚にあります。
    終戦日母の遺品に父の覚書がありました
    戦死した父が残したお店の記録です
    すべてが筆書きでなめらかな筆跡でした
    なめらかな父の筆跡終戦忌   


30草虱

      堂縁に良き風来たる地蔵盆(男声女声)      常朝    (演奏時間 1:42)   

 注:2010年7月奈良・伝香寺の地蔵盆は7月でした。午後4時から読経の中「はだか地蔵」の着せ替えがあり、その後お守りをいただきました。
境内で「いさがわ幼稚園」の盆踊りが始まる5時すぎまで堂縁で待ちました。
夕方になり境内の橙の木などを抜けて香り良い風が来ました。
    境内に幼稚園ある奈良の寺
    地蔵盆の読経に着せ替え地蔵様
    園児の盆踊り待てば御堂に良き風も
    堂縁に良き風来たる地蔵盆

     草虱政治悪いと云ひて取る(男声女声)      常朝    (演奏時間 1:50)

注:2010年11月生駒市の竹林園を訪ねました。
東側の池までの道を歩くと草じらみがズボンに沢山付きました。
池の辺りで休みがてら草虱を 政治が悪い など独り言を言いながら取りました。
    竹林園は年中青い竹の庭です
    その庭を抜けて東の池へ歩けば
    ズボンについたよ草じらみ
    平和のためにと軍事化すすむわが日本
    草虱政治悪いと云ひて取る


   壊されし我が家の壁に汗落とす(男声女声)   常朝    (演奏時間 2:25)

注:1985年8月大阪へ転勤後、7年間空家だった大和高田市の家を処分し奈良へ移りました。業者が更地にするために解体中の家を見に行きました。倒された白壁に汗が落ちました。1965年以来13年住み、1978年の東京転勤まで子供達も生まれ育った家です。
    この家で結婚もし子供達も生まれたのです。  
    20年我が家であった家が今壊されています。
    重機で破片となった白壁が足元にあります。
    壊されし我が家の壁に汗落とす


   蓮の葉の盆舟母と送りけり(男声女声)       常朝    (演奏時間 1:53)

注:2012年年8月奈良大和田町の行者滝に行く途中、富雄川に盆の供物の茄子が浮いていました。子供の頃母がお盆すぎ、蓮の葉に茄子やおにぎりなどと線香を置いて、家の下の川に戦死した父の霊を共に見送ったのを思い出しました。
    茄子ひとつ流れて来たる盆の川
    思ひ出す蓮の葉に載すおにぎりと
    父の魂茄子線香
    蓮の葉の盆舟母と送りけり  


    翡翠のくわへし魚を振り打てり(男声女声)      常朝    (演奏時間 1:40)

注:1994年3月奈良・富雄駅近くの富雄川を歩いていたら、青い翡翠(かわせみ)が飛んできて岩に止まり、咥えてきた魚を岩に振りつけました。あっという間の出来事でした。どこで、いつの間に小魚をくわえたかもわからないほどの早業でした。小魚も何がどうなったかわからないまま意識がなくなったでしょう。 
    奈良西の街を流るる富雄川
    翡翠岩に飛び来る
    くわへたる小魚白く光りをり
    翡翠のくわへし魚を振り打てり


29蓮の音

    蓮開く音はあらずと言い切らる(男声女声)      常朝   (演奏時間 2:20)

注:2012年7月琵琶湖烏丸半島の蓮池を訪ねました。蓮の花は少なかったですが葉の上の水玉が風と遊んでいました。朝蓮の花の咲くとき音が出ると聞いていたので、同行者の義姉に聞くと、音はないと言い切られました。数年後風車は撤去されました。
    琵琶湖南の半島に風車ゆっくり回りゐて
    そばに蓮池広がれリ
    花開く音はあるかと尋ねれば 
    蓮開く音はあらずと言ひ切らる


    茅花流し竹炭窯の谷狭し(男声女声)        常朝    (演奏時間 1:54)

注:2011年6月京都府精華町の山田川から乾谷を北へ歩きました。
谷はだんだん狭くなった所に竹炭窯の小屋がありました。
煙は出ていなかったですが、茅花流しの心地よい風が吹いてきました。
    洛南の谷は青葉に囲まれて
    小川の岸の鬼灯も
    ゆらして茅花流し吹く
    茅花流し竹炭窯の谷狭し


   稗蒔を吹きて青波立たせたり(男声女声)     常朝    (演奏時間 2:04)

注:2016年6月去年採っておいた稗(冷え)の種を菓子の空箱の蓋に敷いた綿に撒いたら、ぎっしりときれいに青い稗苗が育ちました。それを上からを吹いたら、まるで植田の波のように青波が立ちました。
    菓子箱の蓋に蒔いたる稗の種
    待てば青々葉が伸びて
    植田の如く育ちたる
    稗蒔を吹きて青波立たせたり  


    葉桜に緑の炎水陽炎(女声男声)              常朝    (演奏時間 2:05)

注:2018年4月奈良生駒市・北田原の山中の池まで歩きました。岸に坐って眺めていたら、岸に垂れる葉桜の葉に、水陽炎が映って揺れていました。まるで、緑の炎が水面から上がっているようでした。
    奈良の北の山に池あり桜あり
    岸に坐ればときおり届く青葉風
    岸の桜の花は早くも葉となれり
    葉桜に緑の炎水陽炎


    七つ目の星は背のてんと虫(男声女声)         常朝    (演奏時間     2:08)

注:2017年5月京都府精華町柘榴地区の山から乾谷までを歩きました。途中の池の北側の細道の土手で休憩していたらてんとう虫が一匹飛んできて左手に止まりました。よく見ると、7つ目の黒い星は丁度背中の上にありました。いつも背中に星を乗せて飛んでいるようです。                   洛南の谷に池あり木立あり
    土手に休めばてんと虫
    我が手にとまり背を見せし
    七つ目の星は背の上てんと虫


28花の雨

   安万呂の墓を鎮めて花の雨(女声男声)        常朝    (演奏時間 1:50)

注:2012年4月奈良市東の此瀬町の大安万侶の墓を訪ねました。墓は茶畑の斜面にあり、登ろうとすると雨が降って来ました。見上げると供花のように桜が満開でした。桜に降る静かな雨が1300年もここで眠っている安麿呂の墓を鎮めているようでした。
    奈良の東の茶畑に
    古事記なしたる人眠る
    祈れば降りきし花の雨
    安万呂の墓を鎮めて花の雨


     田に映り飛びゆく蛍ことのほか(女声男声)    常朝    (演奏時間 1:34)

注:2015年6月奈良・飛鳥川の飛び石に蛍狩りに行きました。
夕茜の空の下、蛍を待っていると一匹二匹と下流の藪から光が見えました。
しばらく川岸で蛍を見たあと、県道に戻って、川を見下ろしたら、蛍が岸から離れて田の上を飛びました。田植え前の水に蛍が映って数が二倍になったようで格別きれいでした。
    古きより飛び石残る飛鳥川
    夕茜待てば夕闇迫りきて
    川面から田の面へ蛍二つ三つ
    田に映り飛びゆく蛍ことのほか

この飛び石は万葉集の 明日香川明日も渡らむ石橋の遠き心は思ほえぬかも 巻11-2701
に詠まれている石橋です。


      芭蕉聞きし雲雀の声か細峠(女声男声)      常朝    (演奏時間 2:15)

注:2019年5月子供の日、桜井市鹿路から細峠を経由して竜在峠に登りました。
細峠を右へ(西へ)折れて歩くと雲雀の声が聞こえました。
細峠には芭蕉の句碑「ひばりより空にやすらふ峠かな」があります。
まさしく雲雀はやや下の方から聞こえたので、
芭蕉もこのように雲雀の声を聞いたのだろうか、と昔を思いました。
    鹿路から竜在峠への山の道
    細峠には芭蕉句碑
    ひばりより空にやすらふ峠かな
    芭蕉聞きし雲雀の声か細峠


      淋しげに見ゆる桜の花盛り(女声男声)       常朝    (演奏時間 1:58)

注:2019年4月平成最後の31年の春、近くの富雄川岸を歩いたら大きな桜の木々が満開でした。桜並木なので、孤立しているわけではないのですが、すべてがなんとなく淋しげに見えました。見事な花盛りなのでこれからは散るしかないと感じたからでしょう。
    平成の最後の春はたけなわよ
    川沿いの土手に桜の並木あり
    どの木も今や花盛り
    淋しげに見ゆる桜の花盛り

      金剛の時間水とて田水引く(男声女声)       常朝    (演奏時間 1:45)

注:2007年5月奈良・御所市金剛山のふもと伏見あたりを歩きました。
金剛山の水で育つ米は美味しいですが、水は貴重なので田毎に時間を決めて分水します。それを時間水というらしいですが、そのために小さな時計塔がふもとの畦に立っていました。
    金剛山ふもとに番水時計立ち
    貴重な水を田に分かつ
    葛城のおいしい米に育つべく
    金剛の時間水とて田水引く

27初燕

      環濠の水面狭しと初燕(男声女声)           常朝    (演奏時間 1:30)

注:2017年4月奈良・桧原神社から天理市・竹の内の環濠集落を訪ねました。環濠の土手には桜が咲いて、水面にも花びらが散っていました。燕が2、3羽狭い環濠を飛んで、時々水面を叩いていました。その年初めて見た燕でした。
   山の辺の道にありたる集落に
   昔の環濠跡ありし
   その岸の桜を抜けて燕来し
   環濠の水面狭しと初燕   


    廃線のランプ小屋にも若葉風(男声女声)    常朝   (演奏時間 1:40)

注:2010年6月奈良・大仏鉄道跡を訪ねました。鉄道は明治31年から40年まで開業していた奈良・大仏駅から加茂駅までの鉄道跡で、駅跡公園とトンネル跡しか残っていませんが、昔石油を保管した煉瓦作りのランプ小屋が加茂駅に残っていました。
   その昔蒸気機関車走りたる
   鉄路の跡にランプ小屋
   煉瓦に煙かかりしか
   廃線のランプ小屋にも若葉風


   目の前に斎王おはす賀茂祭(男声女声)      常朝    (演奏時間 2:30) 

注:2000年5月15日京都葵祭(賀茂祭)に参列しました。雨のため一時行列が止まりましたが、再開されて我々の前に斎王の輿がきました。そこで行列がしばらく止まったのでしっかり斎王を拝見でき、KBSラジオのインタビューも受けました。


   じゃがいもの花鳥の影通り過ぐ(男声女声) 常朝   (演奏時間 1:55) 

注:1990年5月住んでいた世田谷区玉堤から二子玉川までの多摩川土手を歩いていたら当時はまだ畑が多く、ジャガイモの紫の花が咲いていました。見ていると、鳩か何かの鳥影が花の上をすばやく横切ったので驚きました。


   朴青葉高高とある吉野かな(女声男声)  常朝    (演奏時間 1:49) 

注:2014年6月奈良・東吉野村の天好園を訪ねました。途中、166号線の新木津(しんこづ)トンネルを抜けて 100メートルほどの左手に、前登志夫の
「朴の花たかだかと咲くまひるまをみなかみにさびし高見の山は」  の歌碑があります。そばに朴(ほう)の木が数本あり、どの木も大きな青葉がきれいでした。


26梅に鶯

   できすぎよ梅見てをれば鶯も(男声女声)  常朝    (演奏時間 1:50)

 注:2014年3月京田辺の高船を訪ねました。
高山溜池(くろんど池)の東の高船口からゆるい坂を登ると途中に羊小屋があり、この日は羊が放たれて田の草を食べていました。そばに梅が咲いていたので眺めていたら、なんと鶯が枝に飛んできて止まりました。梅と鶯を同時に見たのは生まれて初めてで幸運でした。 
   高船は京と大和の国境
   高船へ登る谷坂春浅し
   羊小屋脇に咲きたる梅白し
   できすぎよ梅見てをれば鶯も

      みな笑顔桜並木に逢ふ人は(男声女声) 常朝    (演奏時間 1:45)  

注:2010年4月奈良・大渕池から山陵町あたりまで秋篠川の桜並木を歩きました。桜が実に満開で天気も最高だったので、すれ違う人達は皆笑顔でした。
    大渕の池源流に
    流るる川の川沿いに
    桜並木のつづきをり
    皆笑顔桜並木に逢ふ人は

   回りつつ輪を狭めけり鴨の陣(男声) 常朝    (演奏時間 1:50) 

注:2018年1月末奈良・大和民俗公園へ行った帰り、大和田城の北の池を訪ねました。たまたま鴨が20羽くらい集まっていて鴨の陣を作っており、そのうち鴨たちが時計回りに回転をはじめました。見ているとその輪が段々と狭くなってきて、そのうちの1羽が輪から抜けてしばらくして元に戻りました。何のために回転をしているのでしょうか。

    城跡に近き池あり波静か
    鴨の群集まり回る鴨の陣
    抜け出し戻る鴨もおり
            回りつつ輪を狭めけり鴨の陣

   吉隠の寺に一樹の冬紅葉(男声)  常朝     (演奏時間 1:50) 

注:2015年11月奈良・桜井市の吉隠(よなばり)を訪ねました。
ここは、天武天皇の穂積皇子がなき但馬皇女を偲んで詠んだ万葉集の歌
「降る雪は あはにな降りそ 吉隠の 猪養(ヰカヒ)の岡の 寒からまくに」
に詠まれた地です。
実生の楓を取りに来ていた地元の男性に、教えてもらい極楽寺(無住寺)を訪ねました。1400年も経った今、但馬皇女のお墓の場所はわからないらしいですが、冬紅葉が一樹きれいで皇女への供華のようでした。(原曲:Orpheus作曲)

    吉隠の冬は寒しや山中に
    但馬皇女の墓ありと
    いへど見ゆるは山ばかり
    吉隠の寺に一樹の冬紅葉

   枯芒触るれば温みありにけり(男声) 常朝     (演奏時間 2:10) 

注:2011年12月京都山田川から木津川の上河原を訪ねました。川面には鴨の群が全身揺られており、岸の枯れ芒に触れると猫の毛のように柔らかく暖かでした。12月にしては良い日差しだったのでしょう。

    大川の川面に鴨の群揺れて
    河原に師走の日差あり
    岸辺に一群枯芒
    枯芒触るれば温みありにけり

25磐座

   磐座に木の葉落つるを待ちゐたり(男声) 常朝  (演奏時間 1:57)  

注:2013年11月奈良・生駒市矢田遊歩道のドンデン池から小明町の稲倉神社を訪ねました。説明板によると明治以降、兵隊のがれ祈願の神社として信仰を集めたようです。ここには烏帽子岩と呼ばれる高さ6メートルの磐座があります。磐座に木の葉が散るのを見ようと待ちましたがなかなか散ってくれませんでした。(原曲:Orpheus作曲) 

    矢田丘の麓の谷に神社あり
    高き木の下に鎮座の大岩は
    烏帽子の形の神の岩
    磐座に木の葉落つるを待ちゐたり


    大川の曲がりおほらか桑紅葉(男声) 常朝  (演奏時間 1:35) 

 注:2012年11月奈良・川西町の糸井神社を訪ねました。太鼓踊りの絵馬など見てから、寺川に出ました。橋のたもとに桑の木があり、きれいに黄葉しています。上流を見ると広い川が左へおおらかに曲がってゆったりと流れていました。どこかで見たような景色でもあり心が落ち着きました。(原曲:Orpheus作曲)

    太鼓踊りの絵馬ある社は川ほとり
    岸の桑の樹黄葉せり
    踊りの輪の如く曲がれる大川よ
    大川の曲がりおほらか桑黄葉 


  山門は明智の城門冬紅葉(男声) 常朝     (演奏時間 2:26) 

注:2017年11月菊ずくめの料理・菊御膳をいただくため、近江の西教寺を訪ねました。参道には鬼の大津絵を描いた灯籠が置かれ、冬紅葉がきれいでした。

山門の説明文にはこの地の名君と言われた明智光秀の城門が移設されたとありました。
    菊ずくしの御膳いただく大寺は  (原曲:Orpheus作曲)
    光秀ゆかり琵琶湖のほとり
    見事なる紅葉もさらに馳走なり
    山門は明智の城門冬紅葉


 お目当ての小豆粥出て十夜寺(男声) 常朝   (演奏時間 2:11) 

注:2008年11月いつもの俳句メンバーで奈良・法徳寺のお十夜に参列しました。お十夜は浄土宗の念仏会ですが、小豆粥が振るまわれると聞いて喜んで参列、長いお経と説教が終わると期待通り小豆粥がでて美味しくいただきました。がまんの甲斐がありました。

    奈良町の古きお寺の念仏会
    昔は十日十夜もお経あげたると
    秋の夜にあまた集いし本堂に
    お目当ての小豆粥出て十夜寺


     威銃谺の方が強かりし(男声)   常朝   (演奏時間 2:01)

注:2014年8月京都精華町の田んぼの並ぶ山田川沿いに歩いていたら、突然威銃が「どん」となり、川の北側対岸の小山の崖にこだましてバキューンというような音がしました。谺(こだま)の方が音が相当強くて驚きました。

    川沿いに早くも稔る早稲田あり
    歩めば飛び立つ稲雀
    驚かすいきなり響く威銃
    威銃谺の方が強かりし

24棗の実

  文机にひとつづつ減る棗の実(男声女声)  常朝   (演奏時間 1:58)

注:2015年10月奈良・奥明日香の入谷から桜井市鹿路(ろくろ)を訪ねました。途中の坂道に棗(なつめ)の木が一本沢山の実をつけていました。あまりにきれいな実だったので5、6個ほど失敬して、自分の机の上の皿に置いて眺めていましたが、そのうち食べたくなって毎日一つづつ食べました。
    明日香から芭蕉通りしろくろ道
    急坂にありし一樹のなつめの木
    いただきし赤紫の実の五つ
    文机にひとつづつ減るなつめの実 


  鳰浮くを百まで数え待ちにけり(男声女声)  常朝     (演奏時間 2:10)

注:1993年11月近くの奈良・大渕池を歩きました。冬になると水鳥が多く来ますが、この日は鳰(にお)だけが、2,3羽潜ったり泳いだりしていました。1羽が潜ったあと百まで数えたが出てきません。あわれ水に溺れたのかと思ったのですが、おそらくここから見えない所に浮き出たのでしょう。(原曲:Orpheus作曲)
    美術館うしろに見ゆる大き池
    さざ波の広がり来たる岸辺にて
    水鳥さがせば鳰いたり
    鳰浮くを百まで数え待ちにけり


  静けさを楽しみゐるや二羽の鴨(男声女声) 常朝   (演奏時間 2:07)  

注:2018年10月奈良・大和民俗公園を訪ねた帰り、奈良・大和田城跡の北500メートル位の所に60メートル四方の池がありました。柵で囲まれていますが、奥の方に鴨が二羽静かに浮かんでいました。あたかも静けさと穏やかさを楽しんでいるようでした。(原曲:Orpheus作曲) 薮を背に城跡近き池ありて

    白雲映す天高し
    よく見れば奥に番か鴨ゐたり
    静けさを楽しみゐるや二羽の鴨


   乗馬して少女廻れり穂草原(男声女声)  常朝      (演奏時間 1:50)  

注:2012年10月木津川の下河原を歩くとテニスコートの北側に乗馬クラブがあり、大きな木の周りを2、3頭の馬が騎手を乗せて歩いていました。その中に少女もいて、手綱さばきも上手に、穂草の中を悠々と騎馬練習をしていました。
    大河原の乗馬クラブに秋高し
    大木を囲む広場を馬場として
    穂草揺らして馬進む
    乗馬して少女廻れり穂草原


  いつまでも綿虫宙に用事なし(男声女声)   常朝      (演奏時間 2:10)

注:2011年10月京田辺の水取から打田への谷道を歩きました。途中の坂道では綿虫が数匹飛んでいます。見ていると疲れを知らないようにいつまでも宙に浮いている。彼らには飛ぶ以外まったく用事がないようでした。(原曲:Orpheus作曲)
    谷沿いの道の片側大岩も
    峠に近き曲り道
    綿虫のゆっくり飛べり秋の谷
    いつまでも綿虫宙に用事なし

23松虫

  藤棚を小舟に乗りて剪定す(男声女声)      常朝      (演奏時間 1:53)

注:1994年9月東京・港区の愛宕山は当時勤務の会社に近かったので昼休みなどによく登りました。夏も終わりましたがまだ暑く、愛宕神社の木々は茂っています。小さな池の上に掛かる藤棚の藤は庭師が小舟に乗って剪定していました。

    愛宕の山木々は茂れど秋暑し
    見上ぐれば石段高く蝉の声
    境内に小さき池あり藤棚も
    藤棚を小舟に乗りて剪定す

  松虫や木の間に大極殿見えて(男声女声) 常朝      (演奏時間 2:07) 

注:2015年9月平城宮跡に二十三夜の月待ちに行きました。二十三夜は満月のあとの月が夜遅く出るのを見るのですが、お天気に恵まれ下弦の半月を見ることができました。大極殿を北西に見る草原の道を歩くと、コオロギの声のなかに「チンチロリン」という、特徴のある松虫の声が聞こえました。これほどはっきり松虫を聞いたのは生まれて初めてでした。(歌詞:4行詩)
   平城京跡に二十三夜の月出でて
   木の間に見ゆる大極殿
   草原に松虫の声くっきりと
   松虫や木の間に大極殿見えて

  八つまで叩きて止みし鉦叩(男声女声)   常朝   (演奏時間 2:40) 

注:2004年9月夜家の庭に鉦叩が鳴きました。注意しないと聞き逃すほどの小さい音でチン、チンと8つまで叩いて止みました。次に叩くまで相当時間がありました。2010年頃から鳴かなくなりました。4行詩にして作曲しました。(原曲:Orpheus作曲)

    家の庭九月の夜は更けゆきて
    空には雲か月見えず
    端居しておれば鳴き出す鉦叩
    八つまで叩きて止みし鉦叩   

  山小屋の蛇口閉じずよ風露草(女声男声)      常朝  (演奏時間 1:51)  

注:2006年7月長男一家と5人で西穂高山荘まで登りました。夜の山小屋から見た星空は美しかったです。降りる途中の山小屋近くにピンクの風露草が咲いて、そばの蛇口は水が出っぱなしでした。試みに下記の4行詩にして作曲しました。(原曲:Orpheus作曲)
   どこまでも空は青くて西穂高
   山荘の星座の光忘れ得ず
   下山する道に桃色風露草
   山小屋の蛇口閉じずよ風露草

   何事も起こらず小さき蜘蛛の巣に(女声男声)  常朝  (演奏時間 2:22) 

注:1989年10月奈良・長弓寺の境内から奥の裏参道の細道を歩いたとき、そばの木に
小さな蜘蛛の巣が掛かっていました。
蝶や虫が飛んでいたのでしばらく見ていましたが何事も起こりませんでした。

22水馬の影

  水馬機械の如き影落す(男声女声)      常朝     (演奏時間 1:43)  

注:1991年5月当時住んでいた東京・世田谷玉堤から多摩川園へ時々歩きましたが、
そこの亀甲山古墳のそばに小さな池があります。アメンボウ(水馬)が泳いでいて底のコンクリートに精巧な機械のような影を落としていました。今でいえば水中のドローンのようでした。

  かなかなの声波のごと寄せて引く(女声男声) 常朝     (演奏時間 1:40)

注:2015年8月奈良生駒市の富雄川から北田原の山中の池まで歩きました。
池を見ていたら、ひぐらしが「きちきちきち」と鳴き始めました。
聞いていたら鳴き声は強くなったあと、弱くなったりまた強くなったりと波のようでした。

  かきまぜる前からこぼしはったい粉(女声男声) 常朝     (演奏時間 1:35)

注:2011年6月久しぶりに[はったい粉]を食べました。
昔のように砂糖を入れて水でかき回しますが、カップに入れるときから粉をこぼしました。子供の頃よく粉をこぼした事を思い出しました。

  空蝉や鬼取村といふならし(男声女声)    常朝     (演奏時間 1:25)

注:1992年8月奈良と大阪の県境・暗峠を訪ねました。石畳の峠道のはずれには湧き水があり、雨蛙がいてそばに空蝉が落ちていました。このあたりは昔鬼取村といい、役行者が生駒山の鬼を捕らえ、髪を切って弟子としたので、髪切山ともいう慈光寺があります。訪ねましたが誰もいませんでした。

  梅花藻の花揺れ続けぶつからず(女声男声)  常朝     (演奏時間 1:58)

注:2011年8月滋賀の醒ケ井を訪ねたました。ここは湧水の地蔵川に梅花藻が美しい所で、我々が訪ねた時はちょうど良い花の時期でした。水中の花がやたら多いので風や波でぶつかりそうですが、意外にぶつからず美しい景色を見せてくれました。

21師の句碑

    師の句碑に炎天時をとどめたる(男声女声)     常朝     (演奏時間 1:45)

注:2010年7月奈良・学園前の峰の寺「阿弥陀寺」を訪ねました。この寺には運河で指導いただいた山中麦邨先生の句碑「ここが炎天の中心かと思ふ」があります。この日も炎天で、木陰を探しながら境内を歩きました。句碑を見ていると炎天の時間はそのまま止まっているようでした。

    どの堂も清水巡らせ行者寺(男声女声)     常朝     (演奏時間 1:40)

注:2013年7月奈良・天川村洞川の龍泉寺を訪ねましたた。
この寺は大峰山の行者が立ち寄り、身を清める修行の寺ですが、湧き水が境内を潤し、湧き水の水行場があります。本堂や神聖殿、庫裏など、どのお堂の周囲にも溝があり清水が流れていました。(原曲:Orpheus作曲)

    桧皮葺濡るる如くに今日の月(男声女声)     常朝     (演奏時間 1:42)

注:2007年9月奈良・三輪大社の観月会に参加しました。
拝殿を見上げると月の光に照らされて檜皮葺の屋根が美しく濡れているようでした。
まるで月の雫が三輪の森に降ったように。

    鬼取の谷ゆるがして威し銃(男声女声)     常朝     (演奏時間 2:02)

注:2011年9月奈良大阪の国道308号線の県境の暗峠を再び訪ねました。
鬼取茶屋の女将に庭の花の名を聞くと「蝶のよる木」と言われました。そんな名の草はあるのかなと見ていたら近くで威銃が峠の谷を揺るがして鳴りました。(原曲:Orpheus作曲)

    蛇泳ぎ切つたるあとの静けさよ(女声男声)    常朝     (演奏時間 2:00)

注:2011年5月奈良富雄川を大和田町日高大神の行者滝まで歩きました。
途中の山池を突然 蛇が泳いで対岸まで進みました。
泳ぎ着いたあと蛇は消えましたが、山池は前より不気味なほど静かになりました。
(原曲:Orpheus作曲)

20青嵐

 目の中に山が一ぱい青嵐(男声女声)      暮石  (演奏時間 1:40)

注:1992年5月頃右城暮石先生が長年住まれた奈良から故郷の土佐本山町へ4月に帰郷されたあとの御句で、平易な言葉なのに土佐の山々をゆるがすような青葉の嵐が目にみえるようです(第六句集散歩圏)。このようなやさしい言葉でインパクトのある句を作れるようになりたいものです。(原曲orpheus作曲)

 蚊遣にと祖母焚きくれし松小枝(女声男声)   常朝 (演奏時間 1:55)

注:2006年7月蚊取り線香を出す時期となりました。線香を見て、昔子供の頃、夏休みに母の里の梨園の山の家で、祖母が蚊取り線香の代わりに、松の小枝を土間で燻べてくれたのを思い出しました。祖母へ感謝をこめて。

 葛城の后の里の薊かな(女声男声)      常朝  (演奏時間 2:00)

注:2005年5月奈良・御所市葛城高宮跡を訪ねました。ここは仁徳天皇の后・磐之媛の実家葛城氏の居館の跡とされています(極楽寺ヒビキ遺跡)。道路東側の遺跡は調査後埋め戻されていますが、周囲の畑の溝に水が走り、雉が鳴いてそばの小さな藪には夏薊(アザミ)が咲いていました。

 草むらを分けゆく子らの水遊び(女声男声)   常朝  (演奏時間 1:38)

注:1981年6月当時住んでいた調布市の多摩川には大きな中洲ができていて、そこは子供たちの絶好の遊び場でした。中洲の背の高い芦原を分け入って中洲の向こう岸まで行き水遊びをしていました。母親が呼びに行くまで。

 端居して庭草叩く雨を聞く(男声女声)        常朝  (演奏時間 2:05)

注:2010年6月数年前軒下に濡れ縁を自作しました。梅雨の雨が一日中降りそうだったので、外出はあきらめ縁側に坐って庭草をながめ、草を叩く雨の音を聞いていると落ちついてきました。

19シャカシャカ祭


注:2018年6月5日奈良・橿原市上品寺町のシャカシャカ祭を訪ねました。
藁で編んだ7メートルもの大蛇を子供たちが担いで町内を歩き災難が無いよう祈る祭ですが、当家の庭では2、3人の男性が藁で蛇を編み、赤布の舌を付けていました。名の由来を聞くと地元の男性は忘れたというので、インターネットで調べたら薮を動く蛇の音だったようです。

 河鹿鳴く川瀬に光あふれゐて(女声男声)     常朝 (演奏時間 1:43)

注:2017年6月奈良・丹生川上神社中社の水神祭に参列したあと、すぐ近くの夢の淵(わた)を訪ねました。夢の淵には小さな滝と深い淵があり、そばの岩から川面を見ると、日差しに浅瀬がきらめいています。しばらく川瀬を見ていたらリリリリリリ と河鹿が鳴きました。(原曲:orpheus作曲)

 すこやかに老ゆるが仕事菖蒲の湯(男声女声)  常朝 (演奏時間 2:00)

注:2017年5月長い菖蒲の葉が2、3本浮く湯に浸かりました。
浮かぶ菖蒲の根元はほの赤く、香りも浴室いっぱいに広がり、元気をもらいました。この年(77才)にもなると健康に生きるのが仕事、と思いました。(原曲:orpheus作曲)

 早乙女に牛握手してお田植祭(男声女声)     常朝 (演奏時間2:15)

注:2013年6月30日奈良・石上神宮のお田植祭と夏越祭を訪ねました。
この日は石上神宮から神剣の行列が出る神剣渡御祭ののち、末社の神田神社でお田植祭があり神剣を立てた斎庭で、作男と牛が出て田耕をし、早乙女が苗を植える仕草をします。その前に、牛役が被った黒衣から手を出して早乙女と握手をしたのは愉快でした。 

 平らなるものの極みよ植田澄む(男声女声)   常朝 (演奏時間 1:30)

注:2019年6月京田辺市の山田川沿いに木津川の方へ歩いたら、右手に田植の終わった植田が並んでどの田も水がきれいに澄んでいました。水田はまったく水平の緑なので、心が安まります。世の中に、これほど広くで水平なものは、他にあるだろうかと思いました。

18源流

 岩窟は賀茂の源流滴れり(男声女声)         常朝 (演奏時間1:55)

注:2011年6月京都雲ケ畑の惟喬神社から志妙院を訪ねました。寺の奥に岩窟があり、中の岩から雫が落ちています。説明板によるとここは賀茂川の源流のひとつだそうです。周囲の青葉がきれいでした。

 火を消して飛ぶとき疾き蛍かな(男声女声)  常朝 (演奏時間1:45)

注:2011年6月奈良・飛鳥柏の森の男縄の上流、飛び石に蛍狩りに行きました。
暗くなるまで待っていたら河鹿が鳴いて、少し下流の木立から蛍が点滅しながら飛ぶはじめました。よく見ていると火を消している時は速く飛んでいるようでした。

 おももちは子雀の声聞きおはす(男声女声)   常朝 (演奏時間1:54)

注:2005年6月奈良・唐招提寺の開山忌に参列しました。今は鑑真和上像はその身代わり像が安置されて年中公開されますが、この頃は開山忌期間中のみ、実物が公開されました。開山堂でお像を拝すると目をつぶって庭の子雀らの声を聞いておられる面持ちでした。((歌)は歌声つき)

 鮴泳ぐ時くつきりと底に影(男声女声)     常朝  (演奏時間1:40)

注:2001年7月奈良・吉野川の鮎釣りを見た後、東吉野村の中井渓谷自然塾を訪ねました。夏休み中で子供たちが20人位、渓谷の川で遊んでおり、川の澄んだ水を見ていたら、
鮴(ごり)がいました。底から浮いたときその影が本物よりくっきりと黒く見えました。

 夏草や水星沈む多摩の丘(男声女声)       常朝 (演奏時間2:17)

注:1981年6月調布市に住んでいた頃、新聞で普段見えない水星が見えると知り、夕方西の空を見たら多摩の丘陵の上に大きな星が見えました。生まれて初めて見た水星でした。上石原の家の西側の畑の畦には早くも夏草が茂っており、水星はゆっくり沈んでいきました。

 葭切や色落ちつきし朱雀門(男声女声)       常朝 (演奏時間2:25)
 
注:2007年7月平城京跡・朱雀門を訪ねました。1998年復元が完成した頃は、朱の色も明るくいかにも復元したという感じでしたが、9年も経つと色も落ち着いてそれなりに風格が出てきました。それを喜ぶように近くの草原で葭切が元気よく鳴いていました。

17つくつくし


注:2019年9月大和郡山市大和田町の行者滝を訪ねました。途中の谷道は法師蝉が「つくつくほうし、つくつくほうし」と繰り返し鳴いています。夏が過ぎて、過ぎてゆく季節、色々な行事や生き物たちを法師蝉も惜しんで鳴いているのかもしれないと思いました。(原曲:おんごく(歌:youtube):昔大阪の盆の女童の行列の唄)


 腰越は鎌倉近し山桜(男声女声)          常朝  (演奏時間1:43)

注:1999年4月江ノ島の腰越へ会社の釣りクラブで海釣りに行きました。帰りに車で134号線を走ると道路の左の土手に山桜が咲いています。腰越から鎌倉はわずか数キロなのに、昔義経は兄頼朝にここで足止めされて鎌倉に入れず、兄に釈明もできず京へ戻ったとのことです。 

 梅林を巡る缶酒尽くるまで(男声女声)      常朝  (演奏時間1:40)

注:2007年2月奈良の追分梅林で地元の人達が運営する屋台で温かい缶酒を買いました。少しずつ飲みながら酒がなくなるまでゆっくり梅林を歩きました。気分は最高でした。

 鳰の子のひとり遊びをしてゐたる(男声女声)   常朝   (演奏時間1:38)

注:20011年10月奈良大和民俗公園を訪ねました。菖蒲園のそばの池に鳰の子が1羽だけいて、水に潜ったり泳いだりしていました。邪魔するものがいないので、好き勝手に遊んでいました。(原曲:お手玉唄一人でさびし)

 葭切や色落ちつきし朱雀門(男声女声)        常朝 (演奏時間2:25)
 
注:2007年7月平城京跡・朱雀門を訪ねました。1998年復元が完成した頃は、朱の色も明るくいかにも復元したという感じでしたが、9年も経つと色も落ち着いてそれなりに風格が出てきました。それを喜ぶように近くの草原で葭切が元気よく鳴いていました。