4風花

    風花の朝日の粒となりて舞ふ(女声男声)    常朝        (演奏時間2:20)  

注:2008年2月24日朝庭に約2センチの雪が積もっており、風花がちらちらと舞い降りて、朝日にきらめいていました。まるで朝日の光の粒のようでした。

      白い花が咲いてゐたのは卯の花よ(男声女声) 常朝        (演奏時間1:34)

注:2010年卯の花の咲く頃、倍賞千恵子さんの「白い花が咲いていた」を聞いていたら昭和30年(1955年)頃生家の隣に疎開していたS叔母が歌ってくれたのを思い出しました。まもなく叔母は大阪へ帰り、後に高校進学した私を下宿させてくれましたが私の大学卒業を待たずに亡くなりました。

       きらめきて波寄せきたり芦の角(男声女声)   常朝        (演奏時間1:34)

注:2011年4月、奈良の神功皇后陵を訪ねたら濠に芦の角(若芽)が数本にょっきり出ており、波がきらめいて寄せていました。春が来たという確かなしるしに、少し希望が湧いてくる気がしました。

  花筏帯解くやうに流れ出す(男声)       滝川        (演奏時間1:33)

注:2012年春の大和句会(運河支部)で特選にとらせていただいた句です。
岩か何かに止まっていた花筏(水面の桜のはなびら)が端の方から流れ出すのを帯解くようにと詠まれたので美しい光景が目に見えるようです。

  柳絮の空大きな絮はますぐ飛ぶ(男声女声)   常朝        (演奏時間1:45)

注:2013年5月木津川の中河原の岸を歩いていたら、河原の高い木、おそらく泥柳、
から後の藪の暗がりの前を日差しを受けて、柳絮が沢山上下に揺れながら飛んで来ました。よく見ると柳絮にも大小があり、大きな絮(わた)はまっすぐ飛んでいました。 

3歌姫

 
 歌姫の土塁の跡よ囀れり(女声男声)    常朝        (演奏時間1:24)

注:2004年4月平城京跡の北の歌姫を訪ねたら、奈良時代の禁苑であった歌姫地区の土塁の跡があり、その小さな樹林に小鳥がさえずっていました。その昔ここには天皇家の楽人と歌姫が住んでいたとのことで歌姫の歌が聞こえるような気がしました。

   山茶花の花びら吹きて花笛に(女声男声)  常朝        (演奏時間1:30)

注:2005年11月奈良市西南の大和田町の行者滝を訪ねたら、はやくも山茶花が咲いていました。滝には他に誰もいなかたので、面白がって草笛のように花びらを吹いたら音がでました。メロデイーはむずかしかったですが。

    白雲も山も映して植田澄む(男声女声)   常朝        (演奏時間2:25)

注:2005年6月7日唐招提寺の開山忌を訪ねるとき、富雄川を歩いていたら川沿いの田は田植えが済んだあとで早苗が小さく、澄んだ水に白雲や矢田丘陵の山が映り、美しい日本の風景でした。

    大年の夕日は白し雲透きて(男声女声)   常朝        (演奏時間1:22)

注:2005年の大晦日(大年)、最後の夕日を見ようと家を出て、東側のゆるい坂をのぼりました。あいにく薄い雲が西の空にかかっていて、きれいな夕日は見れなかったですが、白い太陽を年の最後の日に見ることができました。

    チューリップ咲く植ゑし人逝きたるに(男声女声)常朝        (演奏時間1:35)  

注:2007年4月同級生が急死したので弔問に訪ねたら彼女が庭に植えたチューリップが10本以上咲いていました。2019年4月近くの矢田民俗公園の花壇に高さの違うチューリップが一列に並び音符のようだったので、その音符をもとに作曲しました。

2森青葉

 馬に乗り青葉の森に入りゆけり(男声女声)  常朝        (演奏時間1:49)

注:1994年6月会議出張でドイツ本社のあるシュツットガルトの北西90キロのHerxheim HaynaのホテルKroneに滞在したとき、村の道を30才くらいの女性が馬に乗ってすぐ近くの森に入って行きました。彼女もドイツの森の空気を感じたでしょう。

 春愁の瞳の少女とすれ違ふ(男声女声)    常朝        (演奏時間1:30)

注:1996年4月転勤先の東京から自宅のある奈良へ週末に帰った時、近くの飛鳥カントリークラブへの道を歩いていたら、深刻でつらそうな瞳の高校生くらいの美しい少女とすれ違いました。4月なので新しい学校にいやなことがあったのか、何があったのでしょうか、他人事ながら少し気になりました。

    ふるさとの道に似し道芒道(男声女声)    常朝        (演奏時間1:50)

注:2000年11月奈良の大和民俗博物館を訪ねたら、杉皮葺きの民家もあり、道には芒が風に揺れていました。昭和25年(1950年)頃祖父と歩いた生家近くの山道を思い出しました。今はその道も舗装されてしまいましたが、昔家の山に風呂用の薪を取りに行きました。

 皇后の御成りあるかに梅白し(男声女声)   常朝       (演奏時間1:40)

注:2003年3月近鉄富雄駅近くの線路脇の梅が実に清らかで白く、美智子皇后(現上皇后)が御成りになるような美しさでした。

 秋の蝶誰の魂かと思ふ(女声男声)      常朝       (演奏時間1:45)

注:2004年11月近くの飛鳥カントリークラブの南の矢田丘遊歩道を歩いていたら、美しいツマグロヒョウモン蝶が近づいて来ました。その2年前に母が亡くなり、同じ年に高校からの親友と大学からの親友が亡くなったので、誰の魂かと思いました。

1虫時雨

 月の出の遅しと虫の時雨けり(男声)      大牙        (演奏時間1:15)

注:1970年頃銀行役員をしていた義父が生前地元の阿波野青畝氏らの指導を受けつつ作句した中の一句です。

 いつからの一匹なるや水馬(男声女声)       暮石        (演奏時間2:11)

注:1977年(昭和52年)頃からご指導いただいた右城暮石先生の句です。亡くなられた奥様をしのんでの御句かもしれませんが心に残る句です。
 
 木枯の果てはありけり海の音(男声混声)      言水        (演奏時間1:20)

注:1979年頃、大岡信の「折々のうた」(朝日新聞)にあったこの句に感銘を受けて
俳句をまじめに考えるようになりました。木枯しは太平洋を越えてカリブ海まで行ったのかも。

 夏逝くや父の手旗を見せられて(男声女声)   常朝        (演奏時間1:40)

注:1980年頃、母が存命中の夏の終り、タンスの引出しから父が輸送船に乗っていた時使っていたという手旗(海軍の手旗信号用)を出して見せてくれました。5才の時戦死した父に生前カメラを見せてもらったことなどを思い出しました。 

 船腹に川波映す二月の陽(男声女声)         常朝        (演奏時間2:00)

注:1994年2月当時住んでいた世田谷の多摩川を歩くと古い舟が放置されていて、川波の光が水陽炎のように舟腹に映って揺れていました。